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フランチャイズ本部のブランド価値維持義務-東京地裁平成22年7月14日判決 「不二家消費期限切原料使用事件」

事案の要旨

 
本件は、不二家チェーン・フラチャイズ事業を営む被告との間でフランチャイズ契約を締結した原告が、被告がひきおこした消費期限切れ原料使用問題によりフランチャイズ店の休業を余儀なくさせられ、その後、フランチャイズ店を閉店するに至ったことから、以下のような根拠で、被告に対し損害賠償の支払を求めた事案である。
原告は、1.主位的に、ⅰ被告は、消費者の信頼、信用を保持する資質を有していなかったにもかかわらず、あたかも同資質を有しているかのようにして加盟店を募集し、原告をして、被告に同資質があるものと誤信させ、フランチャイズ契約を締結させたことから、これは詐欺による不法行為にあたる、ⅱ仮に、詐欺にあたらないとしても、被告は、衛生管理、品質管理の適正さを客観的に担保する社内体制を構築していない旨の情報を原告に提供すべき信義則上の義務があったにもかかわらず、これらの事実を秘して、あるいは、過失によりこれを自覚することなく、原告との間でフランチャイズ契約を締結したことから、契約締結上の保護義務違反にあたるなどと主張し、不法行為に基づき、被告に対し損害賠償の支払いを求めた。
また、原告は、2.予備的に、ⅰ被告はフランチャイズ契約に基づくフランチャイズシステムのブランド価値を維持する義務を怠り、もしくは、ⅱフランチャイズ契約に基づく原・被告間の信頼関係を破壊したなどと主張し、債務不履行に基づき、被告に対し損害賠償の支払いを求めた。
 

判断内容の要旨

 (1) 裁判所は、主位的請求(詐欺行為、契約締結上の過失)については、いまだ抽象的なレベルにとどまるため、主張自体失当と判断している。

(2) これに対し、予備的請求のうちブランド価値維持義務違反の主張については、「本件フランチャイズ契約は、被告が原告に対し、商標、サービス・マーク等を試用し、経営ノウハウ及び商品等の継続的な提供を受ける権利を付与するとともに、被告が開発したシステムによる不二家洋菓子チェーン店の経営を行うことを許諾し、その対価として、原告が被告に対し、ロイヤルティー、加盟料等を支払うことを内容とするものというのであるから、被告は、原告に対し、その使用を許諾した商標、サービス・マーク等のブランド価値を自ら損なうことがないようにすべき信義則上の義務を負うものというべきである。」、「本件フランチャイズ契約21条6号は、原告又は被告が「相手方若しくは不二家洋菓子チェーン・フランチャイズ・システムの信用、名誉、のれんを傷つける行為をしたとき」は、事前の催告を要せず、直ちに本件フランチャイズ契約を解約することができることを規定しており」、「原告と被告は、相互に「相手方もしくは不二家洋菓子チェーン・フランチャイズ・システムの信用、名誉、のれんを傷つける行為」をしてはならないとの契約上の義務を負っているものというべきである。そして、「相手方」もしくは「不二家洋菓子チェーン・フランチャイズ・システム」と規定されているところに照らせば、原告のみならず、被告も、「不二家洋菓子チェーン・フランチャイズ・システム」の信用、名誉、のれんを傷つける行為をしてはならないとの契約上の義務を負っているものと解すべきである」と判断している。
そして、被告の消費期限切れの原料を使用したこと、その行為が新聞やテレビ等で報道されたこと、その結果、デパート等の大型店の店頭から、被告商品が撤去され、返品されるなどの事態を招くに至ったこと等の事実に照らせば、「被告は、「不二家洋菓子チェーン・フランチャイズ・システムの信用、名誉、のれん」を傷つけてはならない義務に違反し、本件フランチャイズ契約に係る商標、サービス・マーク等のブランド価値を自ら損なわないようにすべき義務に違反したものと認められる。したがって、被告は、原告に対し、上記義務違反により生じた損害を賠償すべきである。」と判断し、被告のブランド価値義務違反、ないしは契約上の義務違反を認めている。

(3) もっとも、裁判所は、「原告は、本件FC店の開店後、本件休業期間までの3営業年度のいずれも赤字であった上、本件休業期間の後、一度も営業を再開することなく本件FC店の営業をやめたというのであるから、本件問題により、本件FC店の売上げが低下し、そのために廃業に追い込まれたというものでないことが明らかである。そして、原告は、本件問題の発生後、従業員5名が1名を残して退職してしまったことから、本件FC店の営業を再開することができず、廃業に追い込まれた旨を主張するが」、「原告は、被告から、従業員の給与等の販管費を賄えるようにするため、本件休業期間中、一週間ごとに、前年同期の売上げの36%に当たる本券休業補償金の支払いを受けていたにもかかわらず、本件FC店の従業員らに対し、本件休業期間中、従前どおりの給与を支払わず、原告の経営する別の店舗で勤務させたり、別の店舗で勤務させられない者に対しては平成19年1月21日以降給与を支払わなかったというのであるから、本件FC店の従業員らが退職したのは、原告が被告から本件休業補償金を受領しながら、その趣旨に反して従業員らに対して給与を支払わなかったことにあるものというべきである。したがって、原告が本件FC店の営業を再開出来なかったのは、被告によるブランド価値維持義務違反行為によるものとは認められず、被告によるブランド価値維持義務違反行為と原告主張の各損害との間に因果関係があるということはできない。」と判断し、被告の義務違反行為と原告の損害との因果関係を否定しているため、結局、原告の請求は棄却されている。

解説

本判決は、本部が加盟店に対し信義則上のブランド価値維持義務を負うと判断し、さらに、フランチャイズ契約上の即時解約の条項から、本部(及び加盟店)が「不二家洋菓子チェーン・フランチャイズ・システム」の信用、名誉、のれんを傷つける行為をしてはならないとの契約上の義務を負っている判断している(もっとも、本件では、原告の店舗の経営状況や、原告の従業員への対応等の個別事情を考慮し、被告の義務違反と原告が被ったと主張する損害との間には因果関係がないと判断しているため、損害賠償請求自体は棄却されている。)。
本件のように、本部が何か不祥事等を起こした場合、その不祥事に加盟店が関係していなかったとしても、同じ看板を掲げる加盟店の経営にも重大な影響を及ぼすことになる。その結果、加盟店が廃業に追い込まれたとすれば、その加盟店としては、当然本部への責任追求を考えるところである。そのような場合の加盟店による責任追及の手段(請求原因)として、本判決では、本部がブランド価値の維持義務、すなわち、チェーン全体の評判や信用を守る義務に違反したことによる損害賠償責任を認めており、この点で本判決には重要な意義があるといえよう。
本件のように、本部の不祥事が一度発覚すれば、ブランドイメージの著しい低下に直結するため、商標が持つ「品質保証機能」(消費者、取引先等は同じ商標が付された商品やサービスは同じ品質性能を有するものであると期待、信頼をもつことになり、事業者もそれに応えて、一定の商標を付した商品やサービスについてはその商標の信用を落とさないように事業を行うようになる)が、本来とは逆の方向に働き、消費者、取引先等は、直営店、加盟店を含めチェーン全体の商品の品質を疑うことになってしまう。その結果、同じ商標を持つチェーン全体の利益の減少に直結する(本件においても、全加盟店が休業することになっている。)。このような商標の機能からしても、本部(及び加盟店)には、ブランド価値維持義務、チェーン全体の評判や信用を守る義務が認められるべきであるといえよう。 

 

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