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平成15年4月28日金沢地裁判決

事案の要旨

X(原告、フランチャイジー)は、コンビニエンスストアを全国展開しているY(被告、フランチャイザー)とフランチャイズ契約を締結し、コンビニエンスストアの店舗を開店した。
しかしながら、その店舗の開店後の売上は、フランチャイズ契約締結前に提示された売上予測等に到底及ばず(初年度及び2年度が売上予測の約60%、3年度以降は50%台)、ほとんどの月でロイヤリティ支払後の総収入が経費を賄うに足りず赤字であった。
このことから、Xは、Yに対し解約を申し入れ、XとYはフランチャイズ契約を合意解約した。
その後、Xは、Yに提示された売上予測が適正かつ合理的なものであると誤信し、本件フランチャイズ契約を締結したとして、フランチャイズ契約の錯誤による無効、また、Yの信義則上の情報提供義務違反を主張するなどし、不当利得返還請求、損害賠償請求訴訟を提起した。
これに対し、Yは、Xに対し、本件フランチャイズ契約の解除に伴う清算金及び約定解約違約金の支払を請求した。 

判断内容の要旨

「フランチャイズへの加盟契約を締結するか否かを検討している者にとって、通常、最大の関心事は、契約後にその店舗の経営によってどの程度の収益を得ることができるかにある。そして、フランチャイザーは、多数の店舗展開をしてきた経験の中で得られた膨大な情報と売上予測のノウハウを有しているのに対し、フランチャイジー候補者自身は、通常は乏しい情報しか有しておらず、売上予想や収益予想については主としてフランチャイザーから提供される情報に依拠することになるから、フランチャイザーが、フランチャイジー候補者に対し、契約締結交渉の過程で、店舗の売上予測を提供した場合、その内容は、フランチャイジー候補者が契約を締結するか否かを決断するに当たり、重要な影響力を持つと考えられる。もとより、それが予測値である以上、少々の誤差が生じうることはフランチャイジー候補者も理解しているが、上記の情報とノウハウを有するフランチャイザーから提供された情報であるだけに、大幅にずれることはないだろうと信頼するのが通常であるということができる。したがって、フランチャイザーは、フランチャイジー候補者に対して売上予測を提供する場合は、適正な予測を提供するべきである。とりわけ、Yのフランチャイズ契約においては、フランチャイザーがフランチャイジーの売上高から売上原価を差し引いた売上総利益の一定割合(本件契約では51%)をロイヤルティとして徴収するシステムを採用しているため、フランチャイジーの純利益は、売上予測のわずかな誤差によって大きく変動することとなる(中略)から、Yがフランチャイジー候補者に対して提供する売上予測は、一層厳密さを求められるというべきである。」
「そうすると、Yは、フランチャイズ契約の交渉段階に入っていた原告Xに対してM店(X経営店舗)の売上予測及び利益予測を示す場合には、売上に影響を与える諸々のデータを詳細に収集し、これを合理的、科学的に解析した適正な予測を示す信義則上の義務があったというべきである。本件利益計画書の欄外に、「この加盟店利益計画は参考に作成したものであり、本書内容を当社が保証するものではありません。」との記載があったが、これ自体は当然のことであって、原告Xがこの記載を読んだからといって上記のとおりYが示す売上予測値が大幅にはずれることはないだろうと信頼することが不当であるとはいえないから、この記載の事実は上記判断を左右しない。」
「ところで、M店の現実の売上実績は、前記のとおり、1年目で本件売上予測の67パーセント、2年目で62パーセント、3年目で51パーセントという惨憺たる有様だったのであるから、売上実績が本件売上予測値よりもはるかに低水準で推移したことについて特段の原因が認められない限り、本件売上予測値自体が適正ではなかったと推定するべきである。そして、売上予測については、その方法、収集すべき情報の選択、収集した情報の評価の仕方等が専門的内容にわたることに鑑みると、適正でない予測値を提供したことについてYに過失がなかったことが立証されない限り、Yに上記義務に違反する過失があったと推認するべきである。」
「以上の検討の結果によれば、Yが原告Xに提供した本件売上予測等についてはいくつかの疑問点が指摘でき、少なくともこれが適正でなかったことについてYに過失がなかったとは到底認めることができないから、Yには、本件売上予測等が誤っていたことについて過失があったと推定するべきである。そうすると、Yは、その過失により、原告Xに対して適正な売上予測等を示す信義則上の情報提供義務に違反したものであるから、Yには、原告Xに対し、これによって同原告が被った損害を賠償する責任があるというべきである。」
本判決は、以上のように判断し、フランチャイザーであるYの情報提供義務違反を認め、フランチャイジーであったXの請求を一部認容している。
また、YのXに対する、本件契約の解除に伴う清算金および約定解約違約金の請求については、権利濫用、信義則違反を理由に棄却されている。 

解説

この裁判例は、フランチャイザーが提供した売上予測の客観性・合理性(適正さ)の判断方法に関し、「売上実績が売上予測値よりもはるかに低水準で推移した場合は、特段の原因が認められない限り、フランチャイザーが提供した売上予測値自体が適正ではなかったと推定するべき」であると判示し、さらに、「売上予測については、その方法、収集すべき情報の選択、収集した情報の評価の仕方等が専門的内容にわたることからすれば、適正でない予測値を提供したことについてフランチャイザーに過失がなかったことが立証されない限り、フランチャイザーに情報提供義務違反の過失があったと推認するべきである」とまで判示し、一歩踏み込んだところまで判断を示している。
仮に、このような判断方法が一般化出来るならば、フランチャイザーが提供した売上予測とフランチャイジーの店舗の実績値が著しく乖離している場合は、特段の事情がない限り、フランチャイザーの情報提供義務違反及びその過失を推認するべきということになり、フランチャイジー側にとっては非常に有利に働くものといえる。このように、本判決は、売上予測の客観性・合理性(適正さ)の有無の判断に関し、売上予測と実績値との著しい乖離は、単なる一つの要素にとどまることなく、重要なメルクマールになるとしている点で参考になる。

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