フランチャイズ問題情報.com > フランチャイズ・コラム >  競業避止義務違反に対抗するための法的手続き

競業避止義務違反に対抗するための法的手続き

当社は飲食店のフランチャイズ本部を運営するフランチャイザーです。先日、ある加盟者とのフランチャイズ契約が終了したのですが、その後、その加盟者が店舗の看板のみを変更して、ほぼ同じメニュー構成で同じ業態の営業を継続しています。競業避止義務に違反する行為だと考えますが、どのような手続きで対抗すればよいでしょうか。

競業避止義務とは

フランチャイズ契約では、契約期間中あるいは契約終了後の一定期間、フランチャイズ契約にかかる事業と同一または類似の事業を行ってはならないとする条項が置かれることがよくあります。これを一般に競業避止義務条項と呼びます。

フランチャイズ契約を締結すると、本部は加盟者であるフランチャイジーに対し、当該チェーンの商標の利用を許諾するだけでなく、フランチャイザーとしてそれまで開発・蓄積してきた事業上のノウハウを提供します。そこで、このようなノウハウが契約外で不当に利用されることのないよう、フランチャイズ契約では、加盟者に競業避止義務を課することによって、本部ノウハウの保護を図るのです。また、契約終了後については、本部と加盟事業者がフランチャイズ契約のもとで協力して獲得した商圏に関する権利を保護するという目的もあるとされています。

では、今回の相談のように、加盟者が明らかな競業避止義務行為を行っている場合、フランチャイズ本部側としてはどのような対抗手段があるでしょうか。大きく分けると、このような場合、法的には次の二つの対抗手段があります。以下、順に解説します。

  • 加盟店の競業営業自体の差し止め請求
  • 競業避止義務違反に基づく損害賠償請求

差し止め請求

差し止め請求とは、加盟店が行っている競業避止義務違反の営業について、これを中止するよう求める請求をいいます。契約に規定された義務に違反する状態があれば、契約当事者はその相手方対し、違反行為の是正を法的に求めることができるため、フランチャイズ本部は加盟者に対し、競業行為(=契約違反行為)の中止を求めることが可能となるわけです。

この差し止め請求を実現するためには、大きくわけて以下のふたつの方法があります。

1 通常裁判による差し止め請求

競業避止義務に違反している元加盟者を被告として、通常の訴訟手続きにより、営業差し止めの判決を求める裁判を提起する方法です。

裁判では、元加盟店の現在の営業が、競業避止義務に違反するものであるかどうかが争点となります。事案によっては、被告側より、競業避止義務条項自体の効力が争われる場合もあります。

審理の結果、競業避止義務違反が認定されると、裁判所は競業行為の差し止めを命ずる判決を出しますので、加盟者がこれに任意に従うか判決に基づく強制執行をすることなどにより、競業行為が解消されることとなります。

もっとも、事実関係等の争いが大きい場合には、この一連の手続きでは判決を得るまでに1年以上(場合によっては数年単位)の時間を要することが多く、その間にフランチャイズ契約上の競業禁止期間が経過してしまうというケースもあります。

2 仮処分手続きによる差し止め請求

仮処分による差し止め請求は、民事保全法の定める仮処分手続きを利用して、裁判所に対し、加盟店の競業行為を仮に差し止める処分を求めるという方法です。フランチャイザーが申立人(債権者)、フランチャイジーが相手方(債務者)となります。

仮処分手続きでは、手続きの迅速性が重視されるため、通常訴訟のように何年もの期間審理が継続するということは稀で、多くの場合、数ヶ月程度で裁判所の判断を得ることができます。したがって、早期に競業行為の差し止めを実現したいと考えるフランチャイズ本部にとっては、メリットのある手続きであるということができるでしょう。

もっとも、仮処分の場合、加盟者が競業避止義務に違反しているという事実に加えて、通常裁判ではなく仮処分によって仮の差し止めを行っておくべき必要性(仮処分を得なければ回復困難な損害が発生すること。「保全の必要性」と呼ばれます。)を明らかにする必要があり、この点は仮処分利用の大きな障害となっています。また、仮処分はあくまで本裁判前の仮の手続きという位置づけですので、仮処分によって営業差し止め命令を得たとしても、その後、FC本部は本裁判を提起する必要があります。

損害賠償請求

競業避止義務違反を行った加盟者へのもう一つの対抗手段として、加盟者に対する損害賠償請求を行うことが考えられます。この損害賠償請求を行うにあたっては、加盟者に対する損害賠償請求訴訟を提起することになります。もっとも、FC契約書に競業行為を行った場合の「損害賠償額の予定」を定めた条項が存在するかどうかによって、裁判で立証活動が大きく異なってきますので、以下ではそれぞれの場合について解説します。

1 損害賠償額の予定が定められている場合

損害賠償額の予定条項とは、例えば、次のような条項を言います。

甲が本契約書第●条に違反する競業行為を行ったときは、甲は乙に対し、違約金として金1000万円を支払う

このような条項がFC契約書に定められているケースでは、フランチャイズ本部は加盟者に対し、競業行為によって実際に生じた損害の額にかかわらず、予定された金額を請求することができるものとされています(民法420条)。したがって、このような場合には、フランチャイズ本部としては、細かな損害額の立証から解放されることになり、訴訟の争点は、競業避止義務条項自体の有効性や、競業避止義務条項への該当性、賠償予定額の公序良俗違反性(民法90条)などが問題とされる傾向にあります。

2 損害賠償額の予定が定められていない場合

他方、FC契約書に損害賠償額の予定を定めた条項が存在しない場合、フランチャイズ本部の損害賠償請求が認められるためには、原告となるフランチャイズ本部側において、現実に発生した個々の損害を具体的に立証する必要があります。請求対象となる損害の種類としては、ロイヤリティ相当の逸失利益や、競業行為によって近隣直営店が失った利益等が考えられますが、それぞれ立証には工夫が必要となるケースが多いと言えます。

この記事を書いた弁護士

宮嶋弁護士

弁護士 宮嶋 太郎

1980年神戸市生まれ。2歳より静岡県に育つ。静岡県立韮山高校・東京大学法学部卒業。旧司法試験合格。弁護士登録後、10年以上フランチャイズ関連企業の相談や紛争処理業務にあたっている。セブンイレブン見切り販売妨害弁護団やベンチャーリンク関連弁護団等において、著名事件の代理人を務める。2012年には日本弁護士連合会消費者問題対策員会独禁法部会による米国フランチャイズ法制等調査団に参加。コンビニ・フランチャイズ問題弁護士連絡会事務局。弁護士法人ポート・虎ノ門事務所所長。

call.png