不当な勧誘・説明 - フランチャイズトラブル事例

不当な勧誘・説明

A氏(53歳)は、長年勤めた会社を退職し、妻と一緒に、若い頃からの夢であったラーメン店をはじめることにした。しかし、A氏は、飲食店を開業し経営するための細かなノウハウを持ち合わせていなかったことから、まずは、有名フランチャイズチェーン本部Y社のフランチャイズ加盟店になろうと考え、Y社の担当者Zからフランチャイズ契約に関する勧誘説明を受けた。

すると、ZはA氏に対し、Y社が探してきたB市内の店舗用物件でのFC開業を勧めるとともに、その店舗で開業した場合の収益予測を提示した。その際のZの説明によれば、Y社の入念な市場調査の結果、紹介の物件でFC開業をした場合、A氏と妻の今後の生活を支えていくに十分な収益を確保できる見込みであり、うまくいけば近いうちに複数店経営も夢ではないとのことであった。

A氏は、このような説明内容を信じ、Y社とのフランチャイズ契約の締結を決め、退職金の3000万円すべてを加盟金や店舗の工事費用に充て、FC店の営業をはじめた。

ところが、いざオープンしてみると、A氏の店舗の業績は、Y社の収益予測に反し赤字続きとなった。売上高は予測の5割にも満たず、契約勧誘時には説明のなかった経費負担がいくつも発生した。
このため、A氏は借金をしながら収益の改善を目指して努力を続けたが、半年間の営業の後、資金繰りに窮し、閉店を余儀なくされた。

後日の調査の結果、Y社は、A氏に紹介した物件について、なんらの具体的な調査も行わずに、収益予測を提示していたことが判明した。 

解説

1 フランチャイズ契約締結時の説明に関する規律
フランチャイズ契約の締結段階において、フランチャイジーとなろうとする者(加盟契約候補者)は、フランチャイザー(フランチャイズ本部)に比べて事業に関する知識経験少なく、フランチャイザーの提供する情報を頼りに契約締結の可否を判断せざるをえないことが一般的です。
このようなことから、フランチャイザーが加盟契約候補者に対し不当な勧誘を行った場合、主に次のような法律的根拠により、フランチャイザーの法的責任を追及できる場合があります。

ⅰ 詐欺による不法行為
ⅱ 欺まん的顧客誘引(独占禁止法違反)による不法行為
ⅲ 信義則上の情報提供義務違反

2 詐欺による不法行為
フランチャイザーが、ある事実が虚偽であることを知りながら、故意に、これを加盟契約候補者に提示し、加盟契約候補者を騙し、その結果フランチャイズ契約を締結させたというような場合には、詐欺による不法行為が成立するものと考えられます。

3 欺まん的顧客誘引による不法行為
公正取引委員会は、欺まん的顧客誘引、すなわち、「自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引すること。」を、独占禁止法によって禁じられた不公正な取引方法のひとつとして指定しています。
そして、公正取引委員会は、「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」というガイドラインにおいて、フランチャイザーによる一定の不適切な情報開示が欺まん的顧客誘引に該当することを指摘しています。
フランチャイザーが、このような欺まん的顧客誘引に該当する勧誘説明を行い、その結果、加盟契約候補者にフランチャイズ契約を締結させたというような場合には、特段の事情がない限り、不法行為が成立するものと考えられます。

4 信義則上の情報提供義務違反について
フランチャイズ契約の当事者には、事業に関する知識経験や、情報の調査分析能力などの点において、大きな格差が存在します。
このため、一般的に、フランチャイザーは加盟契約候補者に対し、契約締結にあたり、フランチャイズ契約に関する権利義務の内容や、加盟者となって事業をおこなった場合の損益予測に関し、客観的かつ的確な情報を提供すべき信義則上の義務を負うものと理解されています。
したがって、フランチャイザーがこの義務に反する情報提供を行い、その結果、加盟契約候補者にフランチャイズ契約を締結させたというような場合には、特段の事情がない限り、債務不履行または不法行為が成立するものと考えられます。

5 損害の範囲と過失相殺
以上のような法律的根拠によりフランチャイザーの責任が認められる場合、フランチャイジーは、フランチャイザーの違法行為によって生じた損害の賠償を請求することができます。
もっとも、その損害の範囲については、諸説あり、事案によっても異なることから、裁判上も様々な主張がなされています。
また、損害の発生に関し、フランチャイジー側にも一定の過失が認められる場合には、損害賠償の額を定めるに当たりそのことが考慮され、賠償額について過失割合に応じた減額がなされます。

6 本件の場合
本件については、Y社はB市内の店舗について、なんらの具体的調査も行っていなかったのですから、Aに対する説明内容は虚偽であったと言わざるを得ず、上記の法律的根拠による法的責任を負う可能性があります。
A氏としては、初期投資の3000万円に加え、営業上の赤字分等の損害賠償を請求していくことになるでしょう。


●中小小売商業振興法による開示規制について
以上とは別に、中小小売商業振興法11条1項は、特定連鎖化事業という一定範囲のフランチャイズ事業に関し、加盟契約締結前の法定開示書面の交付とその内容の説明をフランチャイズ本部に義務づけ、これによって、フランチャイズ契約に関する一定の事項の情報開示を促しています。 

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