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競業避止義務に関するトラブル - フランチャイズトラブル事例

競業避止義務に関するトラブル

A氏は、長年勤めた会社を退職し、妻と一緒に、若い頃からの夢であった居酒屋をはじめることにした。しかし、A氏は、居酒屋を開業し経営するための細かなノウハウを持ち合わせていなかったことから、まずは、有名フランチャイズチェーン(FC)本部Y社のFC加盟店になろうと考え、Y社の担当者ZからFC契約に関する勧誘説明を受けた。

ZはA氏に対し、Y社が探してきたB市内の店舗用物件でのFC開業を勧めるとともに、その店舗で開業した場合の収益予測を提示し、紹介の物件でFC開業をした場合にはA氏と妻の今後の生活を支えていくに十分な収益を確保できる見込みであるなどと述べるとともに、開業後にはFC本部であるY社の万全の指導援助によるバックアップ体制が確立されているとの説明を行った。

このためA氏は、このようなZの説明を信じ、Y社とのフランチャイズ契約の締結を決め、初期投資として5000万円を投下して、居酒屋店のフランチャイズ営業を開始した。

ところが、A氏がいざ店をオープンしてみると、店舗の業績は、Y社の収益予測とかけ離れた赤字続きとなった。そればかりか、Y社には、当初Zが説明していたようなノウハウがなく、収益を改善できるだけの十分な指導・援助も受けられなかった。

このため、A氏は借金をしながら収益の改善を目指して自ら努力を続けたが、半年間の営業を行った後も、収益が改善することはなかった。

もっとも、A氏は、初期投資として5000万円を投資して店舗を開業していることから、このままその設備を放棄して撤退することはできない。また、幸い、Y社に支払っているロイヤリティーがなくなり、FC本部から供給される割高な食材等の経費が抑えられれば、妻と2人生活していくだけの利益は確保できそうである。

そこで、A氏は、FCから脱退して、現在営業している居酒屋の看板を変え、その地で独立して営業して行きたいと考えている。しかし、FC契約書には、競業避止義務(競業禁止)条項が規定されている。

解説

1 競業が必要となる背景

 フランチャイズチェーン脱退後の競業避止義務(競業禁止)に関する問題は、フランチャイズトラブル において、最も多く現れる問題の一つであるといえます。

 事例にもあるとおり、FC加盟店は、少なくない初期投資を行って店舗を構え、あるいは、必要な設備等をそろえてからFC事業を開始するのが通常でしょうから、その事業が上手くいかなかったからといって、簡単に全てを放棄して撤退などできない状況におかれています。

 他方、フランチャイズ事業が上手く行かない理由には様々なことが考えられますが、一つの理由として、FC本部へのロイヤリティー等の負担が大きいということが挙げられる場合があります。
もちろん、ロイヤリティーの負担が大きいとしても、それに見合っただけのノウハウをFC本部が提供し、これによって業績を改善できる見込みがあるのであれば問題はないでしょう。しかし、なかには、ロイヤリティーの支払いが契約上定められているといった形式的な理由だけで、実質的なノウハウ提供等もなくFC本部がロイヤリティーを取得しているケースもないではありません。
このような場合、FC加盟店としては、ほとんど何の意味もなく、ただロイヤリティーの負担を強いられ続けるということになるわけです。

 このような状況にあるFC加盟店には、FCを脱退し、自ら独立して同種事業の営業を行って、以後の本部に対するロイヤリティーの支払い(あるいは、本部から要求される割高な仕入れ代金、様々な理由をつけては要求される協力金等の負担)を回避しつつ、なんとか事業を継続していきたいという要求が生まれることがあります。

2 競業を行う際に生じる問題点~競業避止義務条項の存在~

 ところが、FC契約には、多くの場合、「競業避止義務(競業禁止)条項」(名称は異なる場合もあります)が設けられています。

「競業避止義務(競業禁止)条項」とは、簡単にいえば、加盟店がFC契約に基づいて行う事業と同種の営業を行ってはならないという内容の契約条項です。

「競業避止義務(競業禁止)条項」には、FC加盟中に他の場所で同種の営業を行ってはならないといった内容のものもありますが、より多くのFC契約書に盛り込まれており、より頻繁に問題となるのは、FC脱退後に同種の営業を行ってはならないという条項です。

 もちろん、FC加盟希望者は、FCに加盟することで事業を成功させたいと考えているわけです。したがって、加盟の当初から、FC脱退後のことまでを深く考えて契約している方は少ないでしょう。あるいは、そもそも「競業避止義務(競業禁止)条項」という文言自体、よく理解していないままFC契約を締結してしまっている方もいるかもしれません。

 しかし、このような条項がFC契約書に盛り込まれている場合、一般的には、そのような条項は基本的には有効なものであると考えられています。したがって、そのような条項に当事者が合意していたものと認められる限り、原則として、FC脱退後の競業は認められないということになります。

3 競業が認められる場合

もっとも、契約による競業避止義務は、無制限に認められるわけではなく、例えば以下に見るような事情がある場合には、競業が認められる可能性もあるといえます。

(1)「競業避止義務(競業禁止)条項」が無効とされるケース

そもそも「競業避止義務(競業禁止)条項」で禁止される範囲(営業禁止区域、営業禁止期間、禁止される営業内容等)が不必要に広過ぎるような場合には、FC脱退者の営業の自由という権利を不当に制限することになってしまいますし、公正な競争の確保という観点からも弊害があるといえます。そのため、このような場合には、「競業避止義務(競業禁止)条項」(の全部または一部)が公序良俗に反し無効とされる可能性があります。

この点、公正取引委員会も、FC本部が加盟者に対して、特定地域で成立している本部の商圏の維持、本部が加盟者に対して供与したノウハウの保護等に必要な範囲を超えるような地域、期間又は内容の競業避止義務を課すことについては、「優越的地位の濫用」に該当する可能性があることを指摘しています。

(2)競業避止義務違反の主張が信義誠実の原則に反し、権利の濫用とされるケース

 また、「競業避止義務(競業禁止)条項」自体が無効であるとまでは言えなくとも、
・FC本部が、説明義務等に違反してFC契約を締結させたという場合
・FC本部としての指導・援助義務を果たさなかったがために独立して競業をしなければならなくなった場合
など、競業行為に至った経緯のなかにFC本部の落ち度が存在するケースでは、FC本部が「競業避止義務(競業禁止)条項」を根拠とした法的請求をすることは、信義誠実の原則に反し、権利濫用であるとして認められない可能性もあります。

(3)まとめ

現時点において、競業が認められる可能性のある主なケースとしては、上記の2つが挙げられます。そして、実際の裁判においても、「競業避止義務(競業禁止)条項」が存在しているにもかかわらず、脱退後のFC加盟店の競業が認められたケースも存在します。

4 「競業避止義務(競業禁止)条項」が裁判で争われる場合

このような「競業避止義務(競業禁止)条項」について、裁判上争われる場合、FC本部は加盟店に対し、具体的にどのような請求をすることになるのでしょうか。

もちろんこれは、本来的にはFC本部側の考えに左右されることですから、必ずこうなるといった結論を断定することはできません。極端な話、FC本部が見て見ぬ振りをした場合には、FC脱退者は事実上競業を継続できることになります。

もっとも、そのようなケースはあまり多くはないと思われますので、以下では、FC本部が採り得る行動のうち主だったものである「営業差止めの請求」と「損害賠償請求」についてご説明します。

(1)営業差止めの請求について

営業差止めの請求は、文字通り、FC脱退者の営業(競業)を止めさせるための手続きといえます。これには、民事保全法に基づく仮処分手続きを利用してなされる場合と、通常の民事訴訟手続きを利用してなされる場合があります。

「競業避止義務(競業禁止)条項」には期間的な限定が定められている場合が多いのですが、例えば、それが1年間という制限の場合、通常の民事裁判で請求しているとその期間(1年間)を過ぎてしまう可能性があります。そこで、FC本部としては、このような事態を避けるため、より迅速な手続きである仮処分手続きを利用することがありますが、その場合には、単に競業避止義務違反行為の存在がありさえすればよいのではなく、仮処分手続を利用してまでも競業行為を差し止めるための保全の必要性という別の要件が必要となります。

(2)損害賠償請求について

損害賠償請求については、示談交渉等で行われるケースもありますが、FC本部とFC脱退者との折り合いがつかなければ、民事訴訟によって請求されるのが一般的です。

この場合の請求金額についても、結局のところ、FC本部の考え次第というところがあります。もっとも、FC契約の中に、FC脱退者が違反した場合の損害賠償予定額等が盛り込まれている場合には、その金額を請求される可能性が高いでしょう。但し、この金額が不当に過大であったりする場合には、いかに予定額とされていても減額されることもあり得ます。

5 本件の場合

事例のケースでは、「競業避止義務(競業禁止)条項」の具体的内容が明確ではありませんが、仮に、競業が禁止される範囲(営業禁止区域、営業禁止期間、禁止される営業内容等)が広きに過ぎる場合には、当該条項自体が(全部又は一部)無効になる可能性があります。その場合、無効になった範囲で競業避止義務(禁止)が解かれますから、A氏は競業が可能となります。

また、そのような事情がなくとも、A氏がFCに加盟した理由がY社の不正確な情報提供によるためであり、かつ、Y社には指導・援助の能力もなかったということですから、その他の事情との総合考慮とはなりますが、Y社が自らの落ち度を棚に上げて競業避止義務(競業禁止)違反を主張するのは、信義誠実の原則に反し、権利の濫用にあたる可能性もあるでしょう。

したがって、A氏としては、このような可能性を探りつつ、今後FCを脱退して事業を継続していくかどうかを検討することになります。

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