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FC加盟金不返還条項の一部無効による不当利得

フランチャイズ契約を締結して加盟金を支払った後、店舗の開業をしないまま契約終了に至る場合に、フランチャイジーがフランチャイザーに対し加盟金の全部または一部の返還を求めるトラブルが発生することがあります。特に、契約締結時点では一定のエリア(出店枠)内に出店する権利を確保しその後に具体的な店舗物件の確保を行う方式の場合には、適切な物件が確保できずこうした紛争が起きがちです。

今回は、このような加盟金返還を巡る訴訟において、加盟金不返還特約が一部無効とされた事例を紹介します。

参考:神戸地方裁判所平成15年7月24日判決

事実関係の概要

■当事者

原告:飲食店経営や不動産管理業を目的とする有限会社。

被告:飲食店の経営・賃貸や加盟店募集事業などを目的とする株式会社。「ステーキワン」のFCチェーンを運営。

■フランチャイズ契約

原告と被告は、訴外株式会社ベンチャーリンクの紹介により、平成9年5月26日、ステーキハウス「ステーキワン」の営業を行うことを目的とするFC契約を締結(契約期間:5年)。

本件では、FC契約のうち、以下の条項の効力が問題となりました。

  • 原告は被告に対し、契約加盟金として800万円を支払う
  • 契約加盟金はいかなる事由によっても返還しない

■フランチャイズ契約後

原告は、FC契約後も営業を開始しないまま、契約継続の意思を失い、被告に対し加盟金返還を求める調停を起こしたが、不調により終了したため、加盟金の返還を求めて訴訟提起。

裁判所の判断のポイント

1 加盟金不返還特約の有効性

本判決は、原告と被告の関係性(格別不平等なものではない)、契約締結前の検討期間・原告の検討能力もあったこと、契約締結につき急迫の必要性もなかったことなどを指摘して、本件の加盟金不返還条項について、被告が優越的な地位を利用して強制したとはいえず、その理由で無効とすることはできないと判断しました。

他方で、本件加盟金不返還条項については、800万円という本件加盟金の金額を考慮し、対価性を著しく欠く場合まで一切返還が認められないというのは暴利行為であり公序良俗違反として無効となるため、当該対価性を欠く部分については不当利得として返還を求めることができるとしました。

2 本件加盟金の性質

本判決は、本件加盟金には店舗の内外装資金やロイヤリティの先払いの性質も含まれているという原告の主張を排斥した上で、本件加盟金は以下の性質を有するものであると認定しました。

  • 営業許諾料
  • 被告の商号・商標の使用許諾料
  • 開業準備費用(店舗開店前後の研修教育訓練費を含む)

3 結論

本判決は、以上のような判断を前提として、本件加盟金800万円と原告が得た利益の対価性を検討し、次のような事項を指摘します。

  • 営業許諾料については、加盟金とは別に、年間数百万円(売上高の5%)のロイヤリティの支払が契約上予定されていたこと
  • 商号・商標の使用許諾料については、原告の加盟契約時点ではFCチェーンとしての実績が乏しく、メディアによる広告宣伝もしておらず全国的な知名度も高くないため商標の集客力は決して高くなかったこと
  • 被告が原告に関する開業準備行為をしておらず、開業準備費用を支出していなかったこと

その上で、上記の事情を前提にすれば、加盟金800万円のうち600万円部分については対価性を欠く不当利得となるとして、被告に対し600万円の返還を命じました。

弁護士による解説

本件は、FC加盟金相当額が不当利得にあたるとしてその返還請求がなされた事案です。加盟金(イニシャル・フランチャイズ・フィー)の返還請求が訴訟になる場合、契約締結に関する情報提供義務違反(保護義務違反)を責任原因とする損害賠償請求における損害項目の一部として、加盟金相当額が請求されることが一般的です。しかし、本件では、原告となった加盟者が店舗の開業にすら至っておらず、このような法律構成での請求が困難であったため、加盟金不返還条項の無効を主張して、不当利得返還請求という構成をとったものと思われます。

FC契約における加盟金不返還条項は、一般に有効と考えられており、加盟金支払後のフランチャイジーによる返還請求は認められないのが原則です。しかし、民法90条は、公序良俗に反する法律行為を無効としており、いわゆる暴利行為は公序良俗違反のなかの一態様であるとされていることから、本件では、本件加盟金の対価性を検討することで、本件加盟金不返還特約条項が暴利行為にあたらないかどうかが問題となりました。

本件では、加盟金は営業許諾料、商号・商標の使用許諾料、開業準備費用の対価であるという認定のもと、それぞれの対価性について判断が示されています。営業許諾料については、営業開始後のロイヤリティ支払が契約上の義務となっていることが重視され、商号・商標の使用許諾料という側面では、商標自体の知名度や周知性をアップさせるためのメディアを通じた広告宣伝活動の有無が重視されました。また、開業準備費用の側面では、実際の開業準備活動に至らなかった原因は原告側の事情によるものであるという認定をしながらも、結局は被告が準備費用を支出していないという客観的な事実を判断のポイントとしているようです。

フランチャイズ契約における加盟金がどのような給付の対価であるかについては、個々のFC本部によって設定が異なる部分です。FC本部としては、本件と同様の紛争が生じる可能性も考慮して制度設計を行っていく必要があるでしょう。他方、FC加盟を検討している事業者としては、契約書や中小小売り商業振興法に基づく法定開示書面(概要書面)などをよくチェックして、加盟金がいかなる給付の対価となっているのかを確認しておくことが重要です。

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