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情報提供義務違反訴訟でよく請求される損害項目

情報提供義務違反に基づく損害賠償請求とは

一般に、フランチャイズ契約の締結に関しては、契約締結に際し、フランチャイザーの加盟候補者に対する信義則上の情報提供義務が認めらると考えられています。

これは、フランチャイズ契約締結の是非を判断するために重要な事項については、客観的かつ合理的な情報を適時に提供すべきという内容の義務であり、この義務に違反する勧誘説明に基づきフランチャイズ契約が締結され、加盟者(フランチャイジー)が損害を被った場合には、債務不履行や不法行為に基づき、フランチャイザーに対する損害賠償請求がなされることが多くあります。

今回は、こうした情報提供義務違反を理由とする損害賠償請求の訴訟において、原告であるフランチャイズ加盟者から請求されることの多い損害項目を紹介します。

初期投資に関する損害

■加盟金

フランチャイズ契約に際して支払われた加盟金は、情報提供義務違反がなければ支出されなかったものとして、通常、損害賠償請求の対象となります。

■FC保証金

FC保証金は、フランチャイズ契約上の債務を担保する趣旨で、フランチャイズ契約締結に際し加盟者から本部に対し支払われる金銭です。このようなFC保証金については、フランチャイズ契約が締結されなければ発生しなかった支出であるとして、損害賠償請求の対象とされることがあります。

もっとも、フランチャイズ契約の終了に際し、保証金の全額が返還されている場合には損害賠償の対象とされることにはなりません。また、損害賠償の対象としてではなく、フランチャイズ契約上の保証金返還条項に基づいて返還請求される場合もあります。

■物件取得費

営業のために店舗を要するフランチャイズ契約の場合、加盟者が店舗物件を取得(賃借も含む)するために必要な費用です。

具体的には、入居物件の賃貸借契約に際し、貸主に支払う礼金(権利金)や、仲介を依頼した不動産業者に対して支払う仲介手数料などが代表的です。

これらの物件取得費についても、フランチャイズ契約の締結がなければ支払う必要のなかった費用であるとして、情報提供義務違反と因果関係のある損害として請求される場合が多いです。

■内装工事代金

店舗型のフランチャイズ事業では、業種・業態により程度の差はありますが、開業前に内装工事が行われることが一般的です。です。特に、店舗に座席を設ける飲食業の場合には、これが数千万円から1億円を超える金額になることもあります。

こうした内装工事代金についても、情報提供義務違反訴訟では請求の対象とされますが、閉店時にFC本部が内装部分を買い取って直営店化するなどした場合には、当該買取代金は損害額から控除されることになります。

また、フランチャイズ契約の終了後も、加盟者が競業行為を行うなどして内装工事の使用を継続するようなケースでは、これが損害となるかについて議論があります。

■許認可等の取得費用

フランチャイズ事業を行う上で必要な許認可(飲食業の営業許可等)の申請に要した費用など、フランチャイズ事業の開業のために必要となった諸経費が損害として請求される場合があります。

■融資に関する費用

フランチャイズ事業を開始するにあたり、初期投資のために必要な費用や運転資金を銀行や信用金庫などの金融機関からの融資によって賄う場合があります。こうしたケースでは、借り入れのために要した担保設定費用や、金銭消費貸借契約上の利息、保証会社への保証料、繰り上げ返済をした場合の手数料などが損害であると主張されることがあります。

なお、借入金の残債務額そのものが、損害として認められることは通常ありません。

フランチャイズ営業開始後に発生する損害

■営業赤字

フランチャイズ契約に基づく事業を開始した後、閉店までの間に、営業を継続したことにより発生する赤字(ランニングの赤字)です。大まかに言えば、営業継続中に発生した経費から、当該営業によって得た売上を控除して算定します。

これらについては、加盟店による店舗運営の巧拙によって赤字が増減する可能性もあるため、情報提供義務違反との因果関係がよく争われますが、多くの訴訟で請求される損害項目です。

なお、内装工事代金等を損害賠償請求の対象としている場合で、帳簿上、これに対する減価償却を行っているケースでは、二重の請求とならないよう、減価償却費相当額についての調整が必要です。

■ロイヤリティ相当額

フランチャイズ契約に基づき、フランチャイジーがフランチャイザーに対して支払ったロイヤリティが損害であると主張されることもあります。

前記の営業赤字を損害であると見る考え方とは、損害に関するアプローチが若干異なった立場からの主張となります。

フランチャイズ営業終了に際し発生する損害

■賃貸物件の中途解約金

フランチャイズ営業を終了し、賃貸物件の賃貸借契約を解約するに際し、中途解約金が発生する場合があります。賃貸借契約上に、3ヶ月前予告や6ヶ月前予告の条項が存在し、当該期間分の賃料の支払いを行った場合の賃料も同様です。

これらの費用についても、フランチャイズ契約終了後の損害として、請求の対象となる場合が多いといえます。

■原状回復費用

賃貸物件の賃貸借契約を解約するケースでは、借り主側で原状回復費用を負担することになるのが一般的です。このため、フランチャイズ契約に基づく営業店舗をFC本部が買い取るようなケースや、居抜き物件として原状回復不要で次の賃借人が見つかった場合などを除くと、原状回復費用が加盟者側の負担として発生することになります。

こうした原状回復費用についても、フランチャイズ契約を締結していなければ発生しなかった損害であるとして、請求の対象とされることがあります。

■賃貸保証金の償却分

店舗の賃貸借契約で不動産オーナー側に賃貸借契約上の保証金を差し入れていた場合、契約に基づいて一定額が償却されて返還される場合があります。

こうした償却分についても、損害賠償の対象とされることがあります。

その他の損害

■予測収益との差額

フランチャイズ契約締結前に、フランチャイズ本部が加盟候補者に対する売上・収益予測を提示しているケースでは、当該収益予測に記載された利益予測額と、実際の営業実績に基づく損益との差額が損害であると主張されることがあります。

もっとも、このような損害項目については、当該収益予測が記載利益の保証をしていたといえる事情のない限り、原則として認められることないものと考えられます。

■契約前の収入との差額

フランチャイズ契約締結前に、加盟者が会社勤めで一定の給与を得ていたようなケースでは、脱サラによって従前の給与収入を失ったなどとして、契約締結前の収入とフランチャイズ契約後の収入との差額を損害賠償請求の対象として主張するケースがあります。

■慰謝料

フランチャイズ契約の加盟者が自然人であるケースでは、情報提供義務違反によりフランチャイズ契約を締結させられ、その事業が失敗したことによって家族不和が生じ精神的苦痛を被ったなどという理由で、慰謝料が請求されるケースもあります。

フランチャイズ契約に関わる紛争では、一般的に経済的損害が治癒されれば同時に精神的苦痛も治癒されたもの判断され、慰謝料が認められるケースは多くありませんが、フランチャイズ本部の義務違反の態様ともう考慮し慰謝料が認め得られるケースもゼロではありません。

まとめ

以上、フランチャイズ契約締結前の情報提供義務違反に基づく損害賠償請求訴訟において、主張されることの多い損害項目についてまとめてみました。

情報提供義務違反に関連する紛争の当事者となっているフランチャイズ本部や加盟者の方の参考になれば幸いです。

なお、上記に列挙した損害項目は、そのすべてが訴訟において必ず認められるというわけではなく、仮に認められたとしても過失相殺の理論によって大きく減殺される可能性もあることにはご注意下さい。

この記事を書いた弁護士

宮嶋弁護士

弁護士 宮嶋 太郎

1980年神戸市生まれ。2歳より静岡県に育つ。静岡県立韮山高校・東京大学法学部卒業。旧司法試験合格。弁護士登録後、10年以上フランチャイズ関連企業の相談や紛争処理業務にあたっている。セブンイレブン見切り販売妨害弁護団やベンチャーリンク関連弁護団等において、著名事件の代理人を務める。2012年には日本弁護士連合会消費者問題対策員会独禁法部会による米国フランチャイズ法制等調査団に参加。コンビニ・フランチャイズ問題弁護士連絡会事務局。弁護士法人ポート・虎ノ門事務所所長。

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