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フランチャイジーの視点からみる「マスターフランチャイザーとサブフランチャイザーの紛争」

モデルケース

X社は、弁当販売事業「甲弁当」の商標を保有し、そのフランチャイズチェーンを展開するFC本部です。X社では、「X社がY社との間でマスターフランチャイズ契約を締結した上、Y社が個別の加盟者とサブフランチャイズ契約を締結し、個別の加盟者が「甲弁当」の店舗運営を行う」という、サブフランチャイズ方式を採用しています。Z社は、Y社との間でサブフランチャイズ契約を締結し、「甲弁当」を3店舗経営しているサブフランチャイジーです。

X社とY社は、チェーン創業当時から、互いに協力してシステムを発展させてきました。しかし、近時、Y社がX社の指導に従わないばかりか、マスターフランチャイズ契約違反に該当するような独自のチェーン運営を行うようになってきました。このため、X社は、やむを得ず、Y社に対し「甲弁当マスターフランチャイズ契約」の解除を通知した上、Y社の傘下にある個別の加盟者に対しても、Y社とのサブフランチャイズ契約を終了させ、X社と直接フランチャイズ契約を締結するよう要請しています。

他方、Y社は、X社によるマスターフランチャイズ契約の解除は無効であるけれども、混乱を避けるため、1年後に「甲弁当」を脱退して新たに同業態のFCチェーン「乙弁当」を立ち上げることを発表し、個別の加盟者に対しては、向こう1年間は従来どおり「甲弁当」チェーンでの営業を行い、1年後にY社との間で新FCチェーン「乙弁当」の加盟契約を結ぶよう要請しています。

Z社の代表者であるA氏は、X社・Y社双方の説明会に参加しましたが、いずれの説明も十分に理解できず、今後Z社としてどうすべきか悩んでいます。A氏としては、これから何を検討し、どのような対応を行っていくべきでしょうか。

サブフランチャイズ方式の法的構造

モデル事例では、マスターフランチャイザーとサブフランチャイザーの間でトラブルが生じた場合に、フランチャイジーがどのように行動するべきかが問題となっています。この問題に適切に対処するためには、まず、サブフランチャイズ方式の契約構造について理解しておくことが必要です。そこで、まず、「サブフランチャイズ」とは何かということを確認しておきましょう。

1 通常のFC契約の構造

通常のフランチャイズ契約では、FC本部(フランチャイザー)が自ら、FC加盟者(フランチャイジー)に対し、自己の商標やサービスマーク等の標識や、自己の経営ノウハウを利用して事業運営を行うことを許諾し、その対価としてのロイヤリティの支払が行われます。この場合、フランチャイジーは、フランチャイザーから直接、フランチャイズ事業を営む権利を付与されることになります。

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2 サブフランチャイズ方式のFC契約の構造

これに対し、サブフランチャズ方式では、下図のような2段階の契約構造により、フランチャイズ権の付与がなされます。

サブフランチャイズ方式の構造

第1段階:マスターフランチャイズ契約

マスターフランチャイザーとサブフランチャイザー(=マスターフランチャイジー)との間で、マスターフランチャイズ契約が締結されます(*1)。マスターフランチャイズ契約においては、マスターフランチャイザーからサブフランチャイザーに対し、マスターフランチャイザーが保有するFC事業について、第三者との間でフランチャイズ契約の締結を行う権利が付与されます。また、その対価として、サブフランチャイザーからマスターフランチャイザーに対し、ライセンス料やロイヤリティなどの名目で、一定の金銭が支払われるのが通常です。

*1:マスターフランチャイズ契約は、権利許諾の側面を重視して「マスターライセンス契約」「ライセンス契約」などの名称が付される場合も多くあります。

第2段階:サブフランチャイズ契約

サブフランチャイザーが、個別の加盟者であるフランチャイジーとの間で、サブフランチャイズ契約を締結します。これにより、フランチャイジーは、マスターフランチャイザーが保有するFC事業について、フランチャイズ権の付与を受け、その商標等やノウハウを利用して事業を行うことができるようになります。また、その対価として、フランチャイジーからサブフランチャイザーに対し、加盟金やロイヤリティとして金銭が支払われるのが通常です。

3 サブフランチャイズ契約の特徴

このように、サブフランチャイズ方式における個々のフランチャイジーの事業は、有効なマスターフランチャイズ契約の存在がその基盤となっているわけです。いわば、マスターフランチャイズ契約が親ガメ、サブフランチャイズ契約が子ガメの関係といってもよいでしょう。

しかし今回の事例では、マスターフランチャイザーが、マスターフランチャイズ契約を解除すると主張しています。もしこの解除が有効であるとすれば、フランチャイジーがフランチャイズ事業を継続する法律上の基盤が失われることになるわけです。このため、モデルケースのように板挟みとなったフランチャイジーは、その後にどのような対応をするかを慎重に検討する必要があります。

考えられるフランチャイジーの対応

次に、今回の事例のようなケースで、フランチャイジーとしては、どのような対応を行うことが想定されるかを整理してみます。

1 マスターフランチャイザーを支持する場合

まず、マスターフランチャイザーの言い分を支持する場合には、次のような対応を行うことが考えられます。

●サブフランチャイズ契約の解除

マスターフランチャイズ契約の解除が有効であるとすれば、サブフランチャイザーは、フランチャイジーに対しフランチャイズ権を付与する権利を失います。そうすると、サブフランチャイザーはフランチャイジーに対し適法にフランチャイズ事業を行わせることができず、これはサブフランチャイズ契約上の債務不履行を構成します。

このため、フランチャイジーとしては、サブフランチャイザーに対し、上記の債務不履行を理由として、サブフランチャイズ契約の解除を通知することが考えられます。

●ロイヤリティの支払停止と損害賠償等の金銭請求

一般に、フランチャイズ契約のような継続的契約を解除した場合、当該契約の効力は将来に向かって失われることになります。このため、フランチャイジーとしては、サブフランチャイズ契約上のロイヤリティの支払を停止することが考えられます。

また、サブフランチャイザーの過失が原因となりサブフランチャイズ契約の解除をせざるを得ない場合には、サブフランチャイザーに対し、解除により生じた損害賠償等の金銭請求を行うことも考えられるでしょう。契約が終了となるので預託保証金があればその返還請求もすることになります。なお、既払いの加盟金の返還請求は原則として困難であると思われますが、加盟後の期間が極めて短いなど特段の事情がある場合には、例外的に返還請求が認められないかを検討してもよいでしょう。

●マスターフランチャイザーとの間で新契約締結

フランチャイジーが、マスターフランチャイズ契約の解除後も従来のFC事業を継続するためには、当該事業について、マスターフランチャイザーから新たにフランチャイズ権の付与を受ける必要があります。

このため、フランチャイジーとしては、マスターフランチャイザーとの間で新たにフランチャイズ契約を締結することが考えられます。

2 サブフランチャイザーを支持する場合

一方、サブフランチャイザーを支持する場合、フランチャイジーは、マスターフランチャイザーによる契約解除は無効であるという立場をとることになります。

この場合、サブフランチャイザーは、当該解除後も、フランチャイジーに対しフランチャイズ権を付与する権利を有効に保有していることになるため、フランチャイジーとしては、マスターフランチャイザーからの要請を拒否することが考えられます。ロイヤリティについても、従前と同様、サブフランチャイザーに対し支払っていくことになるでしょう。

また、サブフランチャイザーが将来的に新たなFCチェーンを創設した場合には、当該チェーン関するフランチャイズ契約を別途締結することが考えられます。

フランチャイジーの法的リスクとその対策

モデルケースの事例で、フランチャイジーであるZ社が、X社とY社それぞれの主張に従った場合の考えられる法的リスクを検討してみましょう。それぞれの場合に考えられる主要な法的リスクとしては、次のようなものがあります(なお、以下は民事上のリスクに絞った解説するものです。)

1 マスターフランチャイザーを支持する場合

Z社が、Y社とのサブフランチャイズ契約につき解除を通知した上、X社との間でたなフランチャイズ契約を締結して従前の営業を継続したという場合、Y社からZ社に対しては、主に以下のような請求がなされることが想定されます。

●競業避止義務に基づく営業差し止め請求

フランチャイズ契約においては、通常、フランチャイジーが同一・同種の事業を無断で経営することを禁止する「競業避止義務」が規定されています。そしてこれは、契約期間中のみならず、契約終了後の一定期間について定められていることが一般的です。

このような競業避止義務規定がある場合、Y社はZ社に対し、X社との間で別のフランチャイズ契約を締結しても、Z社による営業継続は競業避止義務に違反することになる旨を主張して、Z社による営業の中止要求(営業差止請求)を行うことが考えられるでしょう。裁判手続きに拠る場合には、通常の訴訟手続での請求のほか、民事保全法に基づく仮処分の申請がなされることも考えられます。

これに対し、Z社側としては、Y社の契約違反行為によってサブフランチャイザーとしての地位が失われ、Z社がサブフランチャイズ契約の解除を余儀なくされたという経緯によれば、Z社が競業避止義務に拘束されることはない旨の反論を行うことになるでしょう。具体的な構成としては、競業避止義務条項はそうした場合への適用が予定されていないとか、そうした場合への適用は民法90条違反で無効となるなどの主張が考えられます。

●損害賠償や違約金などの金銭請求

Z社からY社に対するサブフランチャイズ契約の解除は無効であるとして、Y社から、サブフランチャイズ契約に基づく違約金の請求や、Z社の行為によって生じた損害の賠償請求を受けることが考えられます。裁判手続としては、通常の訴訟手続での請求となる可能性が高いでしょう。

このような請求に対し、Z社としては、サブフランチャイズ契約の解除は有効であり、その原因もY社側にあることを主張し、違約金や損害賠償の支払義務は発生しない旨の反論を行うことが考えられます。

2 サブフランチャイザーを支持する場合

一方、Z社がY社を支持し、サブフランチャイズ契約に基づいて「甲弁当」の営業を継続した場合には、X社から以下のような請求がなされることが想定されます。

●差し止め請求

サブフランチャイズ方式の場合、フランチャイズ事業で使用する商標については、マスターフランチャイザーがその商標権を保有し、サブフランチャイザーや傘下のフランチャイジーに対しその使用を許諾していることが一般的です。

このような場合には、商標権者のX社からZ社に対し、マスターフランチャイズ契約の解除により、Y社やZ社が「甲弁当」の商標を使用する権利が失われたとして、商標使用の差し止めの請求がなされることが想定されます。裁判手続きに拠る場合には、通常の訴訟手続での請求のほか、民事保全法に基づく仮処分の申請がなされることも考えられます。

また、Z社による「甲弁当」の営業活動が不正競争防止法違反に該当する場合には、不正競争防止法に基づく不正競争行為の差し止め請求がなされることも考えられるでしょう。

●損害賠償請求

Z社が「甲弁当」の営業を継続することによりX社に損害が発生した場合、X社からZ社に対し、損害賠償請求がなされることが考えられます。

Z社とX社は直接の契約関係にはありませんので、法的構成としては民法上の不法行為に基づく損害賠償請求や、商標法や不正競争防止法に基づく損害賠償請求ということになると思われます。

これに対し、Z社側としては、X社によるマスターフランチャイズ契約の解除が無効であり、サブフランチャイズ契約に基づく「甲弁当」の営業継続が正当であって、Zに法的責任が発生しないとの反論を行うことが考えられます。

フランチャイジーとしての行動決定のポイント

これまで、マスターフランチャイザーとサブフランチャイザーの争いが発生した場合に、フランチャイジーの考えられる対応とそのリスクについてみてきました。では、モデルケースのような事案に遭遇したフランチャイジーは、その行動を選択・決定する際に、どのようなポイントを重視すべきでしょうか。

●マスターフランチャイズ契約の解除の有効性

モデルケースのような事案では、マスターフランチャイザーによる「マスターフランチャイズ契約の解除通知が有効かどうかの見極め」が最重要ポイントです。

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前述のようなサブフランチャイズ方式の契約構造による限り、マスターフランチャイズ契約の解除が有効であれば、サブフランチャイズ契約を継続することは基本的に不可能であると考えられるからです。そうした場合には、フランチャイジーによるサブフランチャイズ契約の解除が認められる可能性は高く、また、サブフランチャイザーの身勝手な行動が解除の原因である場合、フランチャイジーに対する競業避止義務の適用が否定される可能性も高いでしょう。

●弁護士への相談が極めて重要

もっとも、継続的契約の一種であるフランチャイズ契約の解除については一定の制限がなされている関係上、上記のマスターフランチャイズ契約の解除が有効かどうかについては、微妙な法的判断が要求される場合がほとんどです。フランチャイジーとしては、一方の説明を鵜呑みにして安易な判断で自社の行動を決断し、その後の法的リスクをいたずらに拡大させるようなことは避けなければなりません。

参考:フランチャイズからの脱退 - 中途解約・合意解約・契約解除などの違い

したがって、モデルケースのようにマスターフランチャイザーとサブフランチャイザーの板挟みとなったフランチャイジーにおいては、必ずフランチャイズに詳しい弁護士に直接相談し、弁護士のサポートを受けながらその後の対応をすすめていくことが、自社の利益を護るために極めて重要となるものといえます。

まとめ

以上、マスターフランチャイザーとサブフランチャイザーの係争事案における、個別フランチャイジーの対応方法について解説してきました。不運にも、マスターフランチャイザーとサブフランチャイザーの争いに巻き込まれたフランチャイジーの方は、おさらいとして、以下の点をもう一度確認していただければと思います。

  • サブフランチャイズ契約の構造を理解しておくことが重要
  • フランチャイジーとしてどちらの主張に従うにしても一定のリスクはある
  • だからこそ慎重な見極めが必要であり、弁護士への相談は必須

弁護士法人ポートでは、本記事のような事案におけるFC加盟者様の対応についても、ご相談を承っております。具体的にこうした問題でお困りの方は、ぜひ一度、当事務所の法律相談をご利用ください。

この記事を書いた弁護士

宮嶋弁護士

弁護士 宮嶋 太郎

1980年神戸市生まれ。2歳より静岡県に育つ。静岡県立韮山高校・東京大学法学部卒業。旧司法試験合格。弁護士登録後、10年以上フランチャイズ関連企業の相談や紛争処理業務にあたっている。セブンイレブン見切り販売妨害弁護団やベンチャーリンク関連弁護団等において、著名事件の代理人を務める。2012年には日本弁護士連合会消費者問題対策員会独禁法部会による米国フランチャイズ法制等調査団に参加。コンビニ・フランチャイズ問題弁護士連絡会事務局。弁護士法人ポート・虎ノ門事務所所長。

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